漫画「ルックバック」考察!京アニ放火事件と京本の事件を徹底比較。作品のメッセージを考える

漫画「ルックバック」考察!京アニ放火事件と京本の事件を徹底比較。作品のメッセージを考える

漫画「ルックバック」は2021年に「少年ジャンプ+」にて読み切りとして掲載された大人気漫画です。

漫画「ルックバック」のコミックスは全1巻がリリースされています。

今回はルックバックについてモデルとなった「京アニ放火事件」との徹底比較。
そして、作品に込められたメッセージ・作者の意志について考察していきたいと思います。

初版発行日2021年9月3日発売
作者作者:藤本タツキ
巻数全1巻(コミックス)
ジャンルサスペンス・ヒューマンドラマ
Wikipedia「ルックバック」のWikipedia

考察を行う上であらすじを含めたネタバレを含む場合があります。
この記事を読む前にルックバックを読んでもらう事をオススメします。

以下では格安で購入する方法についても解説していますので参考にして下さい。

ルックバックで描かれた京本の事件

2016年1月10日

京本が通う山形市の美術大学に住所不定の男が侵入し、斧のような物で学生らを切りつける事件が発生。
京本を含む12人が殺害され、3人が重体となった。

事件に詳細については以下のような形で描かれています。

2016年1月10日 11時17分

美術科洋画コース棟2階にて設置してあるソファに座り休息をとる京本
在学生が階段から金属がぶつかるような音を聞いた
この時ソファの近くに他の学生はいなかった

11時19分、男が外階段から棟内に侵入。
休息中の在学生と接触する

手には実習棟で拾った先端の鋭利な工具を持っていた

「俺のネットにあげてた絵!パクったのがあったろ!?」と激昂した男は工具を振り回し京本を襲う
男は続けて「見下しっ、見下しやがって!俺のアイディアだったのに!パクってんじゃねぇぇぇぇぇ」と叫び襲い続けた

犯人の供述では「目についた美大生を殺すつもりだった」と語っていた。


ルックバック全体にあらすじについては以下で解説しているので参考にして下さい。

京アニ放火事件

2019年7月18日

アニメ制作会社「京都アニメーション」の第1スタジオに男(青葉真司被告)が侵入し、ガソリンを撒いて放火。
36人が死亡し、32人が重軽傷を負った。

2019年7月18日 10時31分

京都アニメーション第1スタジオに青葉真司被告(当時41歳)が侵入

バケツ2個で10~15リットルのガソリンを建物1階にまき、現場にいたスタッフ数名に暴言を叫びながらライターで着火
爆発音とともに大規模な火災が発生し、結果としてスタジオは全焼
大きな被害が起こった。

青葉被告は30代に小説を書いて京アニ大賞に応募するが入選は果たせず。
入選を果たせなくなった事に傷つき、不満を募らせた。
そして青葉被告は自分が恵まれた人生を送れていないのは京アニが認めてくれなかったからだと妄想をはじめ、強い恨みを持つようになった。

過去のニュース記事や裁判の記録から以下の記述を見つけました。

青葉被告は定時制高校を皆勤で卒業し、専門学校に進学したが中退
その後はアルバイトなどを転々としていたが、仕事に対する姿勢の悪かった。

・上司から注意されてもふてくされたり、作業を休んだりする。
・後輩にはたわいもないことで怒鳴りつけ、複数人を退職させる。

仕事が安定しない事から私生活も困窮し、電気やガスなどのインフラも止まる苦しい生活を強いられ、窃盗・暴行・強盗などを行い2度の逮捕歴がある。

刑務所に3年間服役した後、出所して生活保護も受けていたが、近隣住民としばしばトラブルを起こしている。

人間関係構築能力の欠如については幼少期に父親から受けた虐待が起因している事が考えられる。

京本事件、京アニ放火事件の関係性を考える

ルックバックに描かれた京本事件。

美術系の現場で起きた大量殺人であるという点、犯人が犯行を行った動機からルックバックの作者である藤本タツキさんが京アニ放火事件をモチーフにしてルックバックという作品を描いた事が想像できます。

藤本タツキさんがなぜルックバックという作品を描いたのかを考察する前に2つの事件について比較をしていきたいと思います。

京本事件と京アニ放火事件、どちらが先?

京本事件が起きた日 2016年1月10日 11時17分

京アニ放火事件が起きた日 2019年7月18日 10時31分

ルックバックが「少年ジャンプ+」にて読み切りとして掲載されたのは2021年7月19日。
京アニ放火事件が起きた翌日(年は違う)にリリースされているあたりからも京アニ放火事件に関連して作品が描かれた事が伺えます。

またルックバックでは事件発生日時を敢えて京アニ放火事件以前に設定されている点も興味深いですね。

双方の事件の犯人像について

続いて双方の事件における犯人像や動機について確認していきます。

京本事件の犯人像と動機
【動機】
ネットにあげてた絵がパクられたと錯覚して不満を募らせ、恨みを持つ
【事件日の様子】
犯人はパクられた事について奇声挙げながら襲い掛かる
京アニ放火事件の犯人像と動機
【動機】
30代に小説を書いて京アニ大賞に応募するが入選は果たせなかった事に傷つき、不満を募らせる。
自分が恵まれた人生を送れていないのは京アニが認めてくれなかったからだと妄想をはじめ、強い恨みを持つ。
【事件日の様子】
現場にいたスタッフ数名に暴言を叫びながら放火を行う

京アニ放火事件については「作品をパクった」と叫んでいたという説もあり、非常に動機や犯人像は非常に酷似していると言えます。

なぜ京アニ放火事件を取り上げたのか?

ここまでルックバックにおける美術大学襲撃事件と京アニ放火事件の関係性について取り上げました。

作者の藤本タツキさんが京アニ放火事件をテーマに取り上げている事は2つの事件の関係性から明らかだと判断できる点については上記で解説しました。

それでは藤本タツキさんがなぜルックバックという作品を描いたのか?
ルックバックで京アニ放火事件を思い出すような事件を描いたのか?

上記について分析していきたいと思います。

ルックバックの意味とは?

まずはルックバックの意味を考えてみたいと思います。

「ルックバック」=「look back」

直訳すると後ろを見るという意味になります。

ただ直訳的な意味で使われる事はなく、このフレーズは主に比喩的な意味で使用されます。

意味は「過去を振り返る」「思い返す」

この事を考えるとルックバックは、戦争を除く明治時代以降の事件において日本で最多の犠牲者数となった「京アニ放火事件」を思い返すという目的で描かれた事が分かります。

京アニ放火事件を取り上げた理由の考察

では、なぜ藤本タツキさんが悲惨な事件である「京アニ放火事件」を思い返して(読者に思い出させて)まで漫画を描いているのかを考察していきます。

私は以下の3点を理由として挙げています。

京アニ放火事件を取り上げた理由

①事件が起きた事についての悲しみ・追悼

②現実から逃避する事の重要性

③現実を乗り越えて生きていこうという強さ

①事件が起きた事についての悲しみ・追悼

第一に挙げたいのは「京アニ放火事件」で被害にあった方への追悼です。

ルックバックにおいて山形市の美大を襲った犯人は身勝手な理由で犯行を行っていました。
この描写から事件の悲惨さや遺族、友人を含めた関係者の傷の深さなどが痛いほどに伝わってきます。

京アニ放火事件の犯人の供述や日頃の行動・言動などを見ると京アニ放火事件で亡くなられた方々には「殺害されるべき動機はなかった」と言えます。

もちろん動機があれば犯行を行っていいという訳ではありませんが、何も恨まれるべき理由がないのにも関わらず苦痛を与えられ殺害されてしまったという事実はあまりにも残酷です。

そんな残酷な最期を迎えてしまった被害者の方々に対して追悼の意を示したかった

という点が第一の理由なのではないかと考えます。

②現実から逃避する事の重要性

ルックバックでは京本が殺害された事が分かった後、藤野は放心状態となります。
連載を続けていた漫画も休載となり、再開のメドが立たない状態で苦しみと悲しみに支配される状態になりました。

遂には京本の死を自分のせいだと解釈する藤野
自分が京本を誘わなければ、自分が京本の部屋の前で漫画を描かなければ、京本は死ななかったのではないか…

そして京本の部屋の前で漫画を描かなかった自分と言うもう一つの世界線を妄想して、京本を殺害した憎き犯人を自らが倒し京本を救い出すシナリオが頭を巡ります。

京本が亡くなった現実を受け止められずに現実逃避するシーンが描かれています。

このシーンを見て「もっと現実を受け止めなきゃ」という意見を持つ人もいると思いますが、私はこういった逃避・妄想ってとても重要だと思うんですよね。

人は「逃げる」という選択肢を持つことは重要です。

苦難に直面した時に正面衝突して乗り越える事だけを考えていると折れた時に大きな損害を負う事があります。

現代でも会社を退職できずに自殺をしてしまう人がいたり、受験に失敗して自殺をしてしまう人、学校でイジメにあって自殺をしてしまう人などがいます。
実際問題としては会社を辞めても生きていけるし、志望校に行かなくても、高卒で就職しても生きていけます。
学校を不登校になってもそこから立て直す事が出来ます。

要は現実から逃げてもいいんですよね。
絶対に向き合わなくてはいけないと思わなくてもいい、苦しい時は逃げる事を考えても良いんです。

藤野が京本が生きている世界線を妄想し、自分の心を保とうとしていた現実逃避思考は生きていく為に必要な考え方である
そんなメッセージが込められていると考察しました。

③現実を乗り越えて生きていこうという姿勢

2番目の理由では「逃げる」事の重要性について考察を行いましたが、逃避の裏には「そこを乗り越えて再び前を向く」という行動がセットになっていると思います。

先ほどの例を挙げると
「会社を退職した後、またどこかで働こうとすること」
「受験に失敗し、志望校ではない学校に通った後、その学校で頑張る」

こんな事が必要になってきます。

何からも逃げて楽をするのではなくて、本当に苦しいことからは逃げる
そこからまた別のステージで立ち向かう

ルックバックには上記のメッセージが込められているのだと思います。

作中では藤野が京本の部屋に入った時に「京本が心の底から藤野(作品)を応援していた」事実を知ります。

この事実を知った藤野は現実逃避を止めて、再び漫画を描こうと現実に向き合っていきます。

まとめ

ルックバックの作者である藤本タツキさんが「京アニ放火事件」を取り上げた理由について考察をしていきました。

漫画家として活動する藤本さんが同業者である仲間が悲惨な目に遭い、多くの命を失ってしまった事に対する悲しみ
その悲しみによって心の傷を受け、気持ちを保つことが難しくなったが、その事件を現実の事と受け入れて先に進んでいこうと決意した

こんなメッセージが込められているのではないかと思います。

民間の事件としては過去最大規模で行われた大犯罪を取り上げた時点で否定的な意見が出る事は覚悟していたと思いますが、そのリスクを負ってでも描きたいと思った作品だからこそ漫画ファンから多くの支持を得ていますし、映画化もされたのだと思います。

読み切り作品なので1日で読める漫画です。
価格も高くないので、是非漫画を読んでルックバックという漫画を味わってください。

ルックバックのあらすじ解説

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