漫画「秘密-トップシークレット-」は1999年から「ジェッツコミックス」「花とゆめCOMICSスペシャル」にて連載されていた大人気漫画です。
今回は漫画「秘密-トップシークレット-」のエピソードを紹介し、感想を述べつつ事件の真意や動機について考察していきたいと思います。
エピソードごとの感想と動機考察
「秘密-トップシークレット-」のエピソードごとの感想と考察を述べていきます。
まだ「秘密-トップシークレット-」を読んでいない方は最初に漫画を読んで頂くことをオススメします。
大統領ジョン・B・リード暗殺事件(1巻)
事件のあらすじと動機考察
あらすじ概要
聖人と評されるジョン・B・リード大統領はある日、別宅で死体として発見されています。
警察は脳みそに埋め込まれたチップを解析する事で生前の大統領の資格情報を抜き出し捜査を行います。
大統領の脳みそデータ(画像)からは仮面の男によって写真を奪われ、その後腹部を刺されてしまった事が判明
警察が捜査を進めていくと写真の人物がロス・マコーレイである事が判明します。
ロス・マコーレイはマシュー・ハーヴェイとして誕生日パーティーで出会っていた人物。
常に周りに気を配り視線を方々へ向けて聴衆を意識していたリードですが、誕生日パーティーではずっとマシューを見ていました。
リードは、マシューの正体を知らないまま純粋な恋心で写真を持った事により、今回の事件が起きてしまいました。
動機考察
一番最初に読んだ時になぜ大統領が殺害されてしまったのか、大統領がなぜマシューをずっと見ていたのかが分かりませんでした。
ただ読唇術を使うケビンが「なぜ大統領が死を賭してまで守った秘密が聴衆の目に晒されなくてはいけないのか?」という心の声が聞こえた時にリードのマシューに対する想いが伝わりました。
マシューはオーストリアの反体制武装組織の幹部
自らの写真を大統領が保持している事から自らの素性、敷いては武装組織の正体が解明される事を恐れて大統領殺害という凶行に及びました。
ただリードがマシューの写真を持っているのは怪しんだからではなく一目惚れしてしまったから…
マシュー(マコーレイ)にパスケースを奪われた時、リードは自分へのスキャンダルを恐れ、SPを呼ばずに単身でマシューへ襲い掛かります。
この各々が持ったリスクが今回の事件を引き起こしてしまいました。
感想
「大統領ジョン・B・リード暗殺事件」はプロローグ的な立ち位置で描かれた話ですが、悲しいすれ違いと科学の進歩とそれに対する人のプライバシーについて深く描かれたストーリーでした。
日本でもそうですが、国民は政治家に聖人君主を求めます。
これってなぜなのでしょうか?
人間ってそもそも完璧な存在ではないし、全ての人間が善の部分を持っていますが、悪の部分も持っています。
それは国民の代表であっても、世界的なスター選手であっても聖人という訳ではありません。
今回のリード大統領についても同性愛というスキャンダルな面が描かれていますが、ここに国民が求める無責任なヒーロー像が重なり、インパクト十分のエピソードになっています。
第1話にして色々と考えさせられる深い話でした。
28人連続殺人事件、貝沼清孝事件(1巻)
事件のあらすじと動機考察
あらすじ概要
皇室である白泉宮、粧子のロイヤルウェディングパレードが行われた日、9人の若者が同時に自殺するという事件が起こった。
室長の薪剛、新人の青木一行ら「法医第九研究室」はこの事件の捜査を進めていく。
すると自殺した9人は28人連続殺人犯の貝沼清孝によって催眠術を掛けられていた事が分かります。
室長の薪は過去に貝沼の万引きを見逃した過去があり、貝沼はこの出来事によって薪を恨み連続殺人と催眠殺人を実行していたのでした。
動機考察
貝沼が事件を起こした動機は「薪剛への復讐」
どん底状態の自分を救ってくれた薪剛
普通であれば感謝するべき存在だが、自尊心が強い貝沼は憐れみを向けられた事に対して大きな憎しみを抱いた。
と同時に大きな愛情を持つようになった。
この2つの感情を持った貝沼がとった方法は殺人。
それも第九研究室で働く薪に凄惨な殺人を見せるために様々な方法で残酷な事件を起こしていたのでした。
そして最後は薪に対するメッセージを送り自殺。
貝沼清孝の復讐劇はこれにて終わるのでした。
感想
物語の主役である薪、青木が初めて登場するストーリー
当初は鉄のメンタルを持つ天才かと思われた薪が様々な事に苦しみながらも捜査を進めていく信念の強さ、そしてその裏にある人間の弱さが段階ごとに描かれていて美しい構成でした。
事件の鍵を握る鈴木の存在。
捜査によって精神が崩壊してしまったかに思われた鈴木とずっと冷静を保っていたかに思われた薪の立場が逆転する瞬間はドキドキしました。
そして青木と薪がヘリコプターで救出に向かうシーン
「この2人はここで死んでしまうのか?、この漫画は1話読み切りタイプなのか?」とハラハラさせられるシーンなので、是非注目してみてほしいです。
このエピソードの締めの言葉「人の脳を見る度に、死んでしまった人の分もこの世界を愛していけるようにと願い続ける」という言葉はめっちゃ沁みます。
新人・天地奈々子の脳(2巻)
あらすじ概要
ある日、第九研究室にキャリーケースに入った脳みそが届きます。
届いたキャリーケースには「私の体を探して」というメッセージが添えられていました。
その脳みその主は天地奈々子
第九研究室に配属された職員で行方不明になっていた人物。
薪たちはMRIスキャナー捜査を始め、青木も実地調査を開始
天地が生前訪れた白泉病院に事情聴取を行った青木は美人医師によって薬を盛られてしまう。
青木は天地を殺害した方法と同じ手口で殺される寸前の段階まで追い詰められたが、寸前のところで薪たち第九研究室が助けに来て一命を取り留める。
美人医師は逮捕を恐れて拳銃自殺するも天地奈々子の遺体が見つかるのでした。
動機考察
美人医師が連続少女殺人事件や天地奈々子を殺害した動機は作中では正確に描かれていませんでした。
天地奈々子については第九研究室で勤務されている事を把握されていたので、連続少女殺人事件の解明を恐れての犯行である可能性が高いです。
連続少女殺人事件について考えてみると、医師は少女の部位(目玉など)を集めていました。
インテリアとしては微妙なフォルムをしているので、所持している事で自身の恨みやコンプレックスを解消していると考えた方が自然ですよね。
自身が美人である事からも唯一持っていない「若さ」に嫉妬しての犯行なのではないかと考察します。
感想
「天地奈々子の脳」は身内が被害者になるというストーリー展開でした。
第三者が残酷な形で被害を受ける事も悲しいのですが、身内が殺害されると薪や青木の葛藤・悲しみが伝わるのでより悲しみが大きくなります。
最初に描写では「3~4時間であれば生還できる可能性もある」という設定だったので、もしかしたら天地が生き返るパターンもあるのかなと期待していましたが、そう簡単にはいきません。
そういったご都合主義に走らない点も「秘密」の魅力なんですよね。常に儚さがあります。
そして最後に残された「第九研究室で皆が仲良く過ごす」という天地の願望、この締めが泣けました。
露口絹子(2巻)
あらすじ概要
東京拘置所で死刑が執行された露口浩一死刑囚
露口浩一は一家斬殺事件の犯人として逮捕され、自供や物的証拠から異例の速さで刑を執行されたが、MRIスキャナー捜査を行った末に真犯人は娘である露口絹子だった事が分かります。
しかし既に死刑が執行された事から絹子は無罪放免となります。
露口絹子は犯罪者でありながら第九研究室に対して強い嫌悪感を見せ、激しく罵ります。
その理由は絹子が過去に露口浩一によって近親相姦をされた過去があること
浩一の過去を覗くと誰にも見られたくない過去を見られてしまう嫌悪感から強くあたっていたのでした。
露口絹子は一家斬殺事件だけではなく「高校生誘拐殺人事件」にも関与している事が判明。
絹子が平井学という少年を殺害した事から青木たちは絹子の逮捕するのでした。
動機考察
露口絹子の動機は「男性への恨み」です。
この動機を与えたのは父親である露口浩一
浩一は絹子に対して近親相姦を行った事から絹子の精神は崩壊
家族と男性へ対する一方的な恨みを募らせた事で一家斬殺事件を引き起こします。
また援助交際のような形で男たちを誘惑し、その後殺害。
絹子が本当に恨むべき相手は父親である露口浩一ですが、絹子は浩一を直接襲う事をせずに、自分が援助交際をしている相手と性行為をしているところを見せたり、浩一の周りの人間を殺害するという方法をとって苦しめようとします。
まさに「殺すだけでは飽き足らない」という状態だったのだと言えるでしょう。
感想
今回のエピソードは「苦しみは更なる苦しみを生む」という事が描かれており、切ない気持ちになりました。
原因の発端は露口浩一によるレイプな訳ですが、この行為によって受けた恨みが他の人に向かっていった事で新たな事件がどんどん増えていく。
この悲しい連鎖だよなぁと感じました。
が、それを踏まえて言わせてください。
露口絹子の言い分は極めて身勝手です。
もちろん近親相姦を受けた事による情状酌量はあると思いますし、それが家族に向かう事は仕方がない事です。
ただその刃が知らない男性に向かうことって何の脈略もないんですよね。
青木に食って掛かった絹子の言い分を考えても、もともと自己中心的な思考なんだろうなという点が伺い知れます。
感謝とか自責思考とか自身が幸せに生きていく考え方は大きな困難に当たった時に自分の鎧になってくれるんだなと感じました。
着ぐるみ・チャッピー連続殺人事件(3巻)
あらすじ概要
土屋雅紀という男性が何者かに襲われ、左手左足を粉々に砕かれ、全身の皮膚を剥がされ、首を切断されるという事件が起きます。
脳に損傷がなかった為、第九研究室によるMRIスキャナー捜査が行われると5年前に友人たちと廃棄処理施設に行った際に殺人鬼に出会った事、そして施設から逃げ出し、警察には連絡せずに黙秘していた事が分かります。
大量殺人を行った人物がチャッピーという着ぐるみを着ていた事から、着ぐるみバイトをしている関口佳人に聞き込み調査を行います。
土屋の葬儀の後、当時の仲間である西沢、石崎、片岡、竹内、境の5人が洋館に集まります。
館に呼び出したとされていた西沢の死体が金庫に入っていた事から逃げ出そうとしますが、交通手段を遮断され竹内も殺害されてしまいます。
恐怖に慄く3人の前に篠崎香里という人物が現れます。
篠崎は5年前に施設にいて犯人である大倉正に襲われた人物で、兄である佳人を見捨てた5人に復讐を振るために片岡たちを呼び出していました。
3人が殺害されそうになった時に薪と青木が現場に乗り込み、篠崎を逮捕します。
犯人は篠崎香里ではなく、殺害されたと思われた篠崎佳人であることが判明します
佳人は自死を選ぼうとしますが、青木に制止によって自殺は未遂に終わり、後日の取り調べによって罪を自供するのでした。
動機考察
このエピソードは2つの犯罪が絡んでいるので1つずつ解説していきます。
大倉正の事件
大倉正は障害を持っており、左足・左手が不自由だっただけでなく、皮膚などもただれており、幼少期から同年代の子供にイジメに遭っていた。
普段は判断能力などに欠ける面があり、大きな害をもたらす事はなかったが、着ぐるみを来た事で自分の中に隠れていた憎しみの感情が爆発。
児童の大量殺人と言う形で大倉の心の闇が現れてしまった。
篠崎佳人の事件
篠崎佳人は妹の香里と共に大倉に捕まってしまった。
佳人は香里が見ている前で自分の性器を切断されてしまい耐えがたい屈辱を受ける事になる。
そして、その後妹の香里は首を切断され殺害されてしまう。
自らが犠牲になる前、香里は片岡、石崎らを発見。
必至に助けを求めるも片岡らはその場から逃亡。自らが薬物を摂取していた事から警察にも知らせる事無く、篠崎兄弟は悲劇の結末を迎える。
事件後、大倉が自分に恋心を持っている事を察した佳人は大倉をコントロールする事に成功
5年前に自分達を見捨てた片岡達に復讐する事を誓った
感想
着ぐるみチャッピー殺人事件は不幸が不幸を呼ぶ展開で、非常に見ていて辛い物語でした。
作中で石崎が佳人に叫んでいましたが「そもそもの悪は大倉正である」という事が事実なんですよね。
篠崎兄弟を拉致したのも、死亡させたのも大倉
しかし、佳人の憎しみは片岡達に向かいます
(大倉にも復讐心は向かい、結果殺害をしていますが…)
人間の感情って不思議ですよね。
このエピソードはフィクションではありますが、根本的に悪い人(事)よりも感情的に消化できないような悪者もどきの方が憎しみを受ける事があります。
個人的に感じるのは「芸能人の闇営業問題」です。
闇営業問題で一番悪いのは、違法な事を行い、お金儲けを行った組織です。
しかし、悪者の扱いを受けたのはその組織に呼ばれて営業活動を行ったお笑い芸人です。
芸人たちを糾弾するために芸人を呼んだ組織側の人間がインタビューに答えていたのシーンがとても印象的です。
人の思考のズレ、感情によって真偽を見失ったしまう性を見事に取り入れて、落とし込んだエピソード。
読みながら色々と考えさせられました。
監察医・三好雪子(4巻)
あらすじ概要
11月22日の朝、通勤電車内で里中恭子という女性が刺殺された事件が起きる。
事件後、林田雅子、森山渚、押井正、岸谷理香子の4人が頸部を鋭利な刃物で真横に切り裂かれて死亡した事件が発覚
MRIスキャナー捜査を行った結果、殺害された4人は里中恭子と同じ電車に乗っていた事が発覚し、里中刺殺に際して2人の男性が絡んでいた事が分かる。
検死を担当した第一研究所監察医の三好雪子は被害者の検死に携わるが、里中刺殺に絡んでいた男性の一人が「伝染性感染症」によって死亡する。
青木達第九研究室のメンバーは電車の中でウイルスが拡散された事に気付いたが、検死を行った三好も感染してしまう。
おとり捜査を行った青木は里中刺殺に関わったもう一人の男性を発見し確保。
ウイルスを散布していた男の名前は張真
中国からやってきたエリート留学生ながら日本で上手くなじめずに作成したウイルスの散布を計画
もともと実行する予定があったかは不明だが、里中の事件を庇おうとしたときにウイルスをばら撒いてしまっていた。
三好は血清によって一命を取り留め、今後も第一研究所監察医として勤務する事を決めるのだった。
動機考察
張はエリート留学生として来日したが、その頭の良さのせいか、元々の文化の違いなのか日本人の同僚に疎まれていました(作中にも張の悪口を言っている日本人の会話を偶然張が聞いてしまうシーンがありました)
頭が良くない人であれば殴って仕返しをするというパターンも考えられますが、優れた知能を持っていた張はウイルスが兵器を作る事で仕返しを計画
ただ事態の重さを知っていた張はウイルスを作成したものの拡散させる気はなかった。
その引き金を引いたのは同じく中国からやってきて帰化した里中の存在。
張がホームシックのような状態になりながら偶然に訪れた薬局に彼女はいた、患者たちに眩しい笑顔を与えながら…
そして里中がふと口にした中国語から張は里中が中国人である事を知る、そして恋に落ちた。
自らが想いを寄せる里中が同じ電車に乗り合わせた事を偶然発見した張は里中がトラブルに巻き込まれる事を発見する。
暴力を振るわれる里中。
そんな光景を見た張が許せなかったのは里中に暴行を振るった男だけではなかった
自分がまきこまれたくないと暴行事件を素知らぬ顔で無視した乗客全員が許せなかった。
ここにいる全員が生きている価値のない人間だという気持ちになった張は一連の事件の首謀者となった。
感想
監察医・三好雪子の話はミステリー色が強くて個人的にも大好きなお話です。
車内で起こった暴行事件、そして同じ電車に乗り合わせた乗客たちが無差別に殺害をされていく…
そこから発生する無差別テロのような殺人ウイルスの拡散
そして三好雪子が感染してしまい、瀕死の状態になる緊迫感
これだけ2時間ドラマが成立するくらいに重厚で濃密なエピソードでした。
事件の動機にはいじめ・差別と言う人間の業をたっぷりと含んだ要素が用意されており、起承転結がしっかりとなされている素晴らしいエピソードでしたね。
最初はMRIスキャナー捜査の映像に耐えられずに戻していた青木でしたが、彼が根底に持っている情熱・情愛が表に出ていた事もストーリーに彩りを加えてくれました。
三好雪子との恋愛模様、薪と三角関係になるのか、という恋愛要素も楽しみになりました。
屍蝋化死体事件(5巻)
あらすじ概要
病院に横たわる老人。
彼は60年前、金欲しさに子供を誘拐して殺害した事を神父に贖罪した。
警察はこの供述を基に捜査をするが、老人が証言した件とは別の屍蠟化死体が発見される。
MRIスキャナー捜査を行った結果、死体の身元が堀江太一(当時40歳)である事が判明
第一容疑者は当時16歳の息子・堀江尚
捜査を続けていくと犯人は太一の娘で、尚の妹である葵である事が明らかになる。
葵はDVをする現彼氏を殺害しようと刃物を振りかざすが、尚が止めに入りいざこざになった最中に刃物に刺され、尚は死亡。
葵の事件後、老人が告白した子供の斬殺死体が発見される
子供の母親である光浦あかねは第九研究室に出向き、MRIスキャナー捜査を依頼
なんとか耐えながら全ての画像を見た光浦は病室にいた老人を殺害した事を告白。
光浦は子供の脳内に映された若かりし頃の母親である自分と子供の姿を想い、泣き続けるのだった。
動機考察
「屍蝋化死体事件」については事件の動機は明確で情状酌量の余地のある事件の連続でした。
葵が父親の太一を殺害した理由
「激しいDVを受けていた事によって身を守るために殺害」これが要因になります。
義務教育期間が設けられているように子供は親に頼らないと生活する事が出来ません。
母親を亡くした堀江家は太一に頼らないと生活が出来ない状態。そんな中で執拗なまでに子供に暴力を振るう父親から逃れるために刃物を持ち出し殺害しました。
兄である尚は身の危険を察知して、葵を置いて単身で逃亡。
この事を責める向きはあるかもしれませんが、生活力の無い子供が妹を守りながら脱出する事は用意ではありません。逃亡した後もずっと妹の事を心配していた尚に責任はありません。
全ての原因は父親である太一にあり、尚も葵も被害者だと言えますね。
老人が光浦あかねの子供を殺害した理由
この事件の動機は「お金欲しさ」という本当に身勝手な理由
自分を守りたいだけの最低で残虐な行為ですね。
光浦あかねが老人を殺害した理由
老人を殺害した理由は「子供を殺害された事による復讐」です。
子供を亡くし、夫にも先立たれて天涯孤独の身になった光浦あかね。身内の誰かが生きていればストッパーになったのかもしれませんが、何も残されていない立場になった事によって自分の感情をぶつける行為として殺人を行ったのでした。
感想
「屍蝋化死体事件」では3つの事件が複雑に入り組む構成になっていました。
老人が告白した誘拐殺人は酌量の余地がないのですが、罪を犯した人間は心の奥底にある罪悪感が消えないのだなと感じます。
私も殺人とかそういった事ではなく、過去に友達に酷いことを言ってしまったなと思い出す事もあるので、人間は良心の呵責を持っている生き物だなと感じました。
葵の殺人については子供の無力さと子と親の関係性について考えさせられました。
現在日本では親と子の繋がりを強く持つようなシステムになっています。
このシステムによってDV・虐待が行われる家庭が少なからず存在しますし、毒親の支配や介護問題などで苦しむ人達が多く存在しています。
もう少し親と子の繋がりを薄くするシステムがあってもいいと思うんですよね。
扶養義務のようなものを亡くして国で面倒をみるシステムを作る、子供も逃げられる場所を作り、身の安全を第一に考える。
そんなシステムがあれば個人が社会の犠牲になる件数が減るのではないかと考えます。
光浦あかねの殺人については「守るべきものの重要性」について考えさせられます。
あかねは天涯孤独の身になった事で殺人を行ったと動機考察をしましたが、夫が生きていたらきっとこの犯罪はなかったと思うんですよね。
あかねに親友がいたら…、何かしらの組織(会社や団体)に属していたら…
人は守るべきものが多い方が理性が働くのだと思います。
普段から数多くのコミュニティを作っておくことは心の平穏を与えてくれ、いわゆる「無敵の人」になる可能性を減らしてくれるのだろうなと感じました。
A PIECE OF ILLUSION(6巻)
あらすじ概要
今から3年前。
街中で刃物を振り回し、無差別殺人を行った人物が自宅で首を吊って自殺する事件が起き、第九研究室に事件が委ねられる事になる。
当時捜査一課に所属していた岡部警部は上司からの命令で第九研究室に異動
当時、「貝沼清孝による28人連続殺人事件(第1巻参照)」にて薪以外の捜査員が死亡し、壊滅状態にあった薪の下で働くことになる。
第九研究室の捜査方針に対して敵意を持っていた岡部だが、警察内部から「薪を襲った」と謂れのない疑いをかけられた岡部は第九研究室の意義を認めるようになる。
犯人である小島郁子は内気で外見も良くない中年女性だったがお姫様に強い憧れを持っており、辛い現状から逃げるために自分がお姫様になる幻覚を見るようになっていた
被害者である山崎正は小島の事を考えて精神安定剤を渡した。
薬によって妄想癖が治った小島だが、父親の介護と言う地獄のような現実を目の当たりにして絶望
今回の犯行に至ったのだった。
動機考察
小島郁子にとっても妄想の世界に逃げ込むことは彼女の唯一の救いだった。
この救いを奪ってしまった山崎正。彼は純粋に小島を助けたいという親切心から幻覚から目を覚ますように導いたが、この行為が小島の希望を全て奪う結果になってしまった。
感想
今回のエピソードは青木が出てくる前の3年前の話でした。
事件の動機としては悲しいすれ違いによって起きた事件ではありますが、人間にとっての正義を考えさせられるエピソードでした。
人によって正義ってそれぞれ違うんですよね。
代表的な例で言うと戦争が挙げられます。
国同士で戦争する時はどちらの国も自国が正しいと思って争いをしているんですよ。この正しいと思う気持ち、すなわち正義のすれ違いから傷つけ合う事になります。
山崎正は間違いなく小島郁子を思って薬を渡した。
しかし、この行為は小島にとって自分を絶望に貶める悪魔の提案でした。
私は他人と接する時に「自分は自分、人は人」という事を考えるようにしています。
自分が良いと思う事を押し付ける事は相手にとって害になる事が多いからです。
正義同士のぶつかり合いによって争いが起き、悪い結末に向かう事が多いので、まずは相手が何を大切にしているのかを話し合ったうえで意見交換を行いたいですね。
外務大臣長女・千堂咲誘拐事件(7巻)
あらすじ概要
デルナ集団拉致被害者の会で活動する淡路真人は医者からガンを宣告を受け、余命は1~2年だと告げられる。
余命いくばくもない事から淡路は当時、中東アフリカ局長で拉致事件を担当していた千堂潮に復讐する事を誓う
1年後、外務大臣の娘である千堂咲が襲われて拉致される。
犯人がマスコミ各社に犯行声明を出した事から世間を騒がすニュースとなる中、容疑者である吉田さなえの自死した。
吉田さなえのMRIスキャナー捜査を行った結果、千堂咲と思しき人物が中東が管理する船に拉致される映像を発見
娘を攫われた千堂は取り乱し、中東が管理する船「アルタイル」に攻撃するよう命じますが、吉田の映像が命を賭けたフェイクである事を見抜いた薪によって、拉致された少女は咲ではない事が判明
千堂潮は自分の娘ではないと分かると態度を一変させて人質を見捨てることを決定する。
犯人の淡路は病床に臥しており、事件の情報と交換に千堂外務大臣を呼び出す
そして自分を殺害してMRIスキャナー捜査を実施する事を扇動すると千堂潮は煽りに乗り淡路を殺害
淡路の脳をMRIスキャナー捜査にかけた事で咲の救出に成功。そしてアルタイルいた少女も青木の活躍で救出に成功する
殺人の容疑で逮捕された千堂潮は薪と面会する
薪は娘である咲とのDNA鑑定の結果を見せ、千堂潮と千堂咲は親子ではある可能性は0%という事実を突きつける
淡路は千堂に復讐をするために何十年もかけてこの事実を突き止めていた。そして淡路が突き止めていた事実はもう一つあった
それは「アルタイルに拉致された少女、平野望美こそが千堂潮の本当の娘である」ということ
すべてを知らされた千堂潮は咲と会うことを拒絶し、実の娘である望美と対面。
望美がお腹に宿ったときに堕胎するよう指示したこと、今回アルタイルへの攻撃を取りやめたこと
2度も実の娘を裏切った父親であることを自覚した潮は呆然としたまま泣いている望美を見ていた。
動機考察
淡路が千堂咲と平野望美を拉致した動機は「千堂潮への復讐」
当時、中東アフリカ局長としてデルナ集団拉致被害者事件を担当していた千堂潮が事件解決に尽力していなかった事から強い恨みを覚えていた。
感想
今回の「外務大臣長女・千堂咲誘拐事件」は北朝鮮の拉致被害者の事件のオマージュなのかなというストーリー展開でした。
淡路が憎しみを持つ理由付けをしっかりとつけるために千堂潮という人物を『自分の事以外はどうでもいいクズ』として描かれていたのが印象的でした。
今回のストーリーを見ている中でだいぶイライラさせられました。
ただ根本的に拉致事件が解決しなかったことは千堂潮のせいではないんですよね。
千堂潮の人格をクズに描いたこと自体が、一人の要人のせいではないという事を物語っていたのかなと思いました。
北朝鮮の拉致事件はだいぶ昔の話になりましたが、私達が持っているロジックは通用しないんですよね。
一度弱みを見せれば、それをネタにしゃぶりつくされる…
そもそも拉致は犯罪であるにも関わらずそれを強引に正当化して言い寄ってくる訳ですから、こちらとしては手立てがない。
というよりかは毅然とした態度で引かない選択肢しかないんですよね。
当然、被害者や被害者家族からすれば納得のできる決断ではありません。
こういった誠意や善意だけでは済まされない世界が、不完全である人間が営める世界の限界なのかもしれません。
そんなやるせなさを感じさせるエピソードでした。
小学生3名不審死事件(8巻)
あらすじ概要
神奈川県田木津市にある小学生にて地震発生後、短時間に3人の命が奪われる凄惨な事件が起きた
- 体育倉庫で教師である出崎敦史が何者かに刃物で刺され、その後建物の倒壊により死亡
- 屋上から生徒である有田慎が飛び降りてそのまま死亡
- 助けを求めようと学校を飛び出した生徒の馬場栄一が車に轢かれて死亡
第九研究室は有田慎のMRIスキャナー捜査を行い、有田が体育倉庫の殺人を目撃したことを知るが、本人の意識障害によって犯人を特定する事が出来ず
しかし、服装と防犯カメラの情報から教師の生島京子を容疑者としてピックアップする。
決定的な証拠を掴むために青木たちは有田が持っていたスマホを調査しに動くと生島と生島を守ろうとする椎木が捜査の邪魔をするためスマホを奪おうとする。
薪はこの行動を逆手に取り、2人を確保。
薪は生島に有田のMRIスキャナー映像を見せる。
有田のMRIスキャナーやスマホには生島の犯行を証明する画像はなかったが、有田が生島を守ろうと証拠の刃物を隠し、屋上から転落したことを知り、警察に自首するのでした。
動機考察
出崎敦史が殺害された動機は不倫のもつれ
痴情のもつれでの殺害というのは事件としてあるパターンですが、そもそも不倫を行う事は双方にとって責任のあること。
有田への対応を含めて生島京子の身勝手さが際立つ形で描かれていた事が印象的です。
有田慎と馬場栄一は事故死ではありますが、有田が持っていた適応能力の問題、馬場が過去に抱えてしまったトラウマなど重い背景が引き入れた悲しい事件でした。
感想
「小学生3名不審死事件」はやるせない気持ちになるエピソードでした。
出崎と生島については自業自得という感じがありましたが、イジメで苦しみながらも生島への恋心を抱き、守ろうと必死に行動したうえで事故死してしまった有田慎
生島と有田の間の関係性が良好であれば、悲しくも美しい物語に仕上がっていたと思いますが、生島が他の生徒達と同様に有田をイジメていたという背景が何よりも悲しすぎます。
生島は自分に好意を抱く椎木を使って証拠隠滅に動くなどクズ要素を見せますが、外見の良さも含めて様々な男性に好意を頂かれる点が世の中の不条理を現わしていて面白いなと感じました。
そして馬場栄一のエピソードが悲しすぎました。
「馬場が事故死するエピソードいる?」と思ってしまう位に全体のストーリーの流れとは切り離された話になっていたので、作者の清水さんが表現したかった世界観なのだなと受け入れました。
The Last Supper・END GAME(9~12巻)
あらすじ概要
第九研究室は「小学生3名不審死事件」の捜査時に情報漏洩したことを踏まえて漏洩元を調査すると内部犯の犯行であることが明らかになる。
調査をしている折に薪は車に爆弾を仕掛けられ爆発。
命に別状はなかったものの薪の持っている記憶を狙った犯行であることが明らかになる。
その頃、第九研究室には貝沼清孝事件の際に再起不能として病院に運ばれた滝沢幹生が復帰。
青木たちは薪しか知らない「カニバリズム事件」の秘密を共有し、薪を守ろうとするが、青木の姉夫婦が殺害される事件が起こる
薪を脅すために行われた犯罪
薪は青木姉夫婦殺害事件を調査しているうちに精神が崩壊、自分以外の人間に迷惑をかけることを恐れて、自分の持っている秘密をカニバリズム事件を隠そうと目論むチメンザールのスパイ滝沢に渡そうと計画する
滝沢はデータを貰う際、検証のためモニターで確認を行うが、この画像が世界中へ配信されチメンザールの悪事が全世界に明らかになる。
人気を遂行できなかった滝沢は殺し屋に殺害され死亡
殺し屋を倒した薪は青木に救出され、事件は集結した。
動機考察
「END GAME」に出てきた事件は青木の姉が殺害された「恵比寿夫婦殺害事件」
犯人の動機は薪が持っている秘密、チメンザール政府の悪事が記録されている「カニバリズム事件」を消去するため
青木の姉夫婦は直接的に恨みを買うような行動はとっておらず、殺害される動機がないなかで薪への脅迫材料のためだけに殺害されてしまった。
ストーリーの終盤ではチメンザールの諜報員である滝沢幹生が殺し屋に殺害されるが、任務を遂行できなかった滝沢への制裁だと言えます。
ただ滝沢は故意に任務を失敗したような描写がありました。
薪がデータの検証時に画像を全世界に流す罠を仕掛けていたが、滝沢はこの罠を承知でデータを世界へ流した。
チメンザールの反政府活動にも加担していた滝沢、現地で体験した悲惨な体験からこの事件を最後に死にたがっていたのだった。
感想
ラストエピソードである「The Last Supper」「END GAME」は4巻分に渡る長編エピソードでした。
このエピソードの中で最も感情を動かされたのは「青木の姉夫婦の殺害」
最後、滝沢や殺し屋が殺害されるシーンはサスペンスドラマとしては定番シーンですが、捜査員の身内が無情にも手をかけられてしまうシーンは辛すぎて見ていられませんでした。
清水玲子さんが作り出す作品・シナリオは漫画ならではのご都合主義がなく、非情さがあるんですよね。
世の中は残酷なことが起こっています。
何の罪もない人たちが無情にも殺害されてしまう…
当然、ごくごく一部で起こっていることではありますが、殺害されないまでも「なぜこんなに酷いことが自分に起こるんだ…」と思うことは誰しもがあることだと思います。
変に美化をしない清水玲子さんの価値観が反映された最終回でした。
まとめ
ここまで「秘密-トップシークレット-」の各エピソードの動機考察を行ったうえでの感想を話していきました。
綺麗な絵柄と薪のキャラクターが目立つ作品ですが、清水玲子さんが作り出す物語が最大の魅力です。
まだ読んでいない人は、是非読んでほしいイチオシの作品です。
「秘密-トップシークレット-」の詳細なあらすじについては以下で解説しています。